水中毒(棄却・因果関係無し)

平成16年1月30日東京地方裁判所 平成14年(ワ)第18085号 損害賠償請求

東京地方裁判所民事第34部

原告の長男A(当時45歳)が、入院翌日に、水中毒を起こして死亡したところ、同病院の医師にAの水中毒を診断、治療しなかった過失があるとして損害賠償請求した事案(請求棄却)

ア D医師には,平成12年7月19日午後3時40分の段階で体重測定,血液検査及び尿検査を実施しなかった過失が認められるところ,D医師が同時点においてAの体重測定をし,本件入院時に比べて相当程度の体重の増加が認められたとしても(前記3(3)アのとおりAの体重増加が認められる可能性は相当高い。),前記1(2)アのとおり,D医師は,水中毒の予防と治療に関して,多飲があっても,意識障害,全身けいれん等の中枢神経症状がない場合,水分制限によって水中毒の予防を行う,体重増加がみられたときに必要なのは,飲水制限による水中毒発現の予防であるとの見解をとっていたのであるから,Aに対して行われた措置は,前記3(1)エオカキに認定したAに対して実際行われた措置と変わらなかったと認められる。そして,前記3(3)イウに判示したとおり,D医師の見解を支持する文献も存在し,同医師が行った当初はAからコップを取り上げ水を飲まないように注意をし,同日午後5時になって保護室隔離を行ったという措置が相当なものではなく,過失があるとは認められないのであるから,Aの死亡原因が上記のいずれであったとしても,結局実際の経過と同一の経過をたどることになり,Aの死を避けられたとはいえない。
イ また,D医師が,平成12年7月19日午後3時40分に血液検査及び尿検査を実施したとしても,証拠(証人D)によれば,その結果が報告されるまで緊急の場合であっても1,2時間程度を要することが認められるから,Aに異変が生じた同日午後5時45分までに血液・尿検査の結果が明らかになり,Aに対し,異なった処置をとることができたかは明らかではない。
さらに,仮に,血液検査及び尿検査の結果が同日午後5時45分までに明らかになったとしても,前記3(3)ウ(ウ)に判示したとおり,その結果が,Aに対し,塩化ナトリウムの経口投与,高張食塩水輸液や利尿剤使用等の治療を行うべき血清Na値を示すものであったかも明らかではない。
加えて,仮に,血液検査及び尿検査の結果,Aに低Na血症が認められる血清Na値であったとしても,前記1(2)アのとおり,D医師は,意識障害,全身けいれん等の中枢神経症状がない場合,水分制限によって水中毒の予防を行うという見解をとっていたのであるから,同医師は,Aに対し,塩化ナトリウムの経口投与,高張食塩水輸液や利尿剤使用等の治療を行うことなく,実際に行われた措置と同じ措置しかとらなかったと認められ,前記3(3)ウに判示したとおり,それを支持する文献もあり,D医師のそのような措置を過失があるものと認めることもできないから,本件の現実の経過と同じ転帰をとらなかったということはできない。
ウ したがって,D医師の過失とAの死亡との間には因果関係が認められないというべきである。
5 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

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