[裁判例] 行列のできる法律相談所・キャバクラ事件判決

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H16. 2.19 東京地方裁判所 平成14年(ワ)第26959号 損害賠償請求
裁判所名  :東京地方裁判所
部     :民事第49部


判示事項の要旨:
弁護士の私生活上の行状を報道した雑誌の発行による不法行為に関し,プライバシー及び肖像権侵害の違法性を否定し,名誉毀損の違法性を記事の一部について肯定した事例

ア 原告は,東京弁護士会所属の弁護士であり,平成14年9月ないし11月当時,日本テレビ放送網株式会社をキーステーションとして制作・放映されていた「行列のできる法律相談所」と題するテレビ番組(以下「本件テレビ番組」という。)に出演していた。
なお,本件テレビ番組は,4人の弁護士が日常生活上の様々な法律問題について自己の見解をそれぞれ披露し,これらの見解につき互いに討論をすることを主たる内容の1つとしている。
イ 被告は,出版物の発行等を目的とする会社であって,月刊誌「噂の眞相」を発行している。

前判示第2の1の(2)の事実によれば,本件記事1及び2は,原告がキャバクラに頻繁に赴いていること及びその際の原告の具体的な言動等を摘示するものであり,本件写真1は,店内で原告が女性従業員の接待を受けて歓談している様子を撮影したものであるが,これらはいずれも原告が弁護士としての職務活動から離れた後の私生活上の行状に関するものである。
ところで,証拠(甲第16号証,乙第4号証,証人C,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,原告がキャバクラで遊興することがあったことは,Mの関係者を除けば一般には知られていなかったものと認められる。そして,キャバクラは,主として男性がその配偶者や交際相手以外の女性との交流を求め,比較的高額な飲食代金を支払って接待を受けるもので,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)による規制の対象となる飲食業であるが,原告がこれに頻繁に赴いていたこと(前判示第2の1の(2)ア(ア)及び(イ)bce並びに同(3)の各摘示事実),これに関連する店内外での言動や接待を受けている様子等(同(2)ア(イ)abdefghi及びイ(ア)の各摘示事実)は,一般人の感受性を基準にした場合に通常は公開を欲しないであろうと思われる事柄ということができるので,本件記事1及び本件写真1を掲載した本件雑誌の発行及び本件記事2の本件ホームページへの掲載は,原告のプライバシーを侵害するものと認めることができる。

本件記事1及び2を通じて,その言わんとするところは,本件テレビ番組に出演している著名な弁護士である原告が頻繁にキャバクラを訪れ,女性従業員に対してセクハラとも受け取られかねない言動をしている点にあり,証拠(乙第4号証,証人C)によれば,このような報道をした趣旨・目的は,弁護士として社会的に影響力のある原告について読者に情報を提供し,原告についての意見を形成する資料とするためであったと認められるのであって,前判示の報道内容自体はこのような趣旨・目的に副うものであるということができ,表現方法も一方的に原告の人格を非難あるいは攻撃するようなものではなく,不当とまではいうことができない。
なお,本件写真1の掲載は,キャバクラを訪れていることを示すためのものであり,報道目的に照らし,不当とすることはできない。
エ そうすると,プライバシー侵害については違法性がないとの被告の主張を採用することができるから,原告のこの点に関する主張は理由がない。

弁護士として一定の社会的活動を行っている原告についてその資質等を評価するための資料を提供するという面を有する本件記事1において,その主要な摘示事実となっているキャバクラでの言動等について説明するために,店内で女性従業員と歓談している様子を撮影した写真を掲載することは,その報道目的に副ったものということができる。この点で,原告の承諾を得ないで撮影されたことが問題とならないわけではないが,プライバシー侵害行為としての違法性がないことは前判示1の(2)のとおりであるから,その掲載を必ずしも不当な表現方法とすることはできない。
また,本件テレビ番組に出演していることは,原告の異性関係に関する基本的な考え方を推知する意味を問題にする上で重要な事柄であるから,原告の人物像を伝えるためにその容姿を掲載する程度のことは,前判示の目的に照らして相当ということができる。なお,本件写真2を本件雑誌に掲載することは原告が承諾していないのであるが,全国放送網のテレビ番組に出演して多数の公衆の前に明らかにされた場面を撮影した写真を掲載することは,いったんその容姿を秘匿することを放棄した以上,殊更に不当とすべきではないというべきである。

本件雑誌は,全国的に多くの部数が発行されており,多数の読者に本件摘示部分に係る原告の言動が報道され,その発行後,インターネットの電子掲示板に原告を揶揄する書込みがされるなどの事態が生じ,原告が少なからず精神的苦痛を被ったであろうことは推測するに難くない。
しかしながら,本件において被告の報道が違法性を有するのはこの1点に限るのであって,しかも,やや性質を異にするといえども,本件摘示部分において記載された言動と類似の行為を原告が行っていたことは前判示のとおりであり,このことは慰謝料を算定する上で考慮せざるを得ない。
そこで,以上の諸点のほか,原告の社会的地位等の諸般の事情を考慮すれば,原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては30万円とするのが相当である。