平成16年4月13日東京地裁・平成15年(ワ)第10721号損害賠償等請求事件

事案の概要

本件は,イベントを実施する主催者ないしその元請からの依頼を受けて,登録アルバイト員を派遣する業務を日常業務の1つとしている原告が,原告の元従業員である被告Aが,勤務中に特別に持ち出しを許諾されていた本件情報①及び②をプリントアウトした顧客リスト及び登録アルバイト員のリストを不正の利益を得る目的で使用し(不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為),被告会社,同B,同C及び同Dが,被告Aによる上記情報の開示が営業秘密の不正開示行為であることを知って上記情報を取得し,それを使用した(同項8号所定の不正競争行為)と主張し,さらに,被告Aが,勤務中に持ち出しを許諾されていなかった原告所有のパソコン内の本件情報①,②及び④並びに本件情報③を不正の手段により取得して使用し(同項4号所定の不正競争行為),被告会社,同B,同C及び同Dが,上記情報の不正取得行為が介在したことを知って上記情報を取得し,それを使用した(同項5号所定の不正競争行為)と主張して,被告らに対し,同法3条に基づき,本件各情報の使用の差止め並びに本件各情報を記録した媒体の廃棄及びこれらの情報の消去を求めるとともに,民法719条1項,709条に基づき,1000万円の損害賠償を請求する事案である。

 不正競争防止法における「営業秘密」に該当するためには,① 秘密として管理されている情報であること(秘密管理性),② 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性),③ 公然と知られていない情報であること(非公知性)の3つの要件を充足する必要がある(同法2条4項)。

 情報が営業秘密として管理されているか否かは,具体的事情に即して判断されるものであり,例えば,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること及び当該情報にアクセスできる者が制限されていることなどといった事情や,パソコン内の情報を開示した場合はこれを消去させ,又は印刷物であればこれを回収し,当該情報を第三者に漏洩することを厳格に禁止するなどの措置を執ることなどといった事情がある場合には,当該情報が客観的に秘密として管理されているということができる。

 本件情報①については,そのデータが原告従業員全員が閲覧可能な原告所有のパソコンに保存され,そのパソコンにはパスワードの設定もなく,原告は,本件情報①をプリントアウトした顧客リストを全従業員に配布しており,被告Aら原告の従業員は,このリストを机の引出しに保管していたかあるいはかばんに入れて持ち歩いており,原告代表者は,被告Aが自己所有のパソコン及び携帯電話に本件情報①を保有することを許諾していたものである。他方,原告が,原告所有のパソコンにアクセスできる者を制限する措置を執ったり,各従業員に配布した顧客リストのコピー数を確認し同数のコピーを事後回収するといった措置を執ったり,配布した顧客リストに関する情報あるいは被告Aが自己所有のパソコン及び携帯電話に入力した上記情報を第三者などに漏洩することを厳格に禁止するなどの措置を執ったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告は,本件情報①を客観的に秘密として管理していたとはいえない。
なお,本件情報①をプリントアウトした顧客リスト1部が,原告代表者及びEが鍵を管理している扉付き書棚中の書類キャビネットの「持ち出し厳禁」,「社外秘」の表示のある引出しに収められていたことは,前記(2)オ,キ認定のとおりであるが,それ以外にプリントアウトされた顧客リストが各従業員に配布され,それについて秘密として管理されていなかったのであるから,上記認定を覆すに足りない。

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